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『はじめての道徳教科書』

ザンネンなテキスト

第一次安倍内閣で、教育基本法を改正し、さらに第二次安倍内閣では、道徳を学校教育の教科にしようということで、この『教科書』はその流れに沿って作られたものと思います。

表紙には、富士山と桜、まさに「修身」のイメージです。

そして、内容を見ると、最近起きたことをふんだんに取り入れていて、道徳にありがちな古臭い感じはしません。

この「教科書」では、道徳教育の目的を、ハラの据わった人に育てることとしています。
ハラの据わった・・・とは、覚悟が決まったヒトというイメージです。
しかし、「はじめて教科書」ですから、それよりも人としての基本的な善悪を教えることが順序だと思います。
そして、道徳教育の最終目標は、人格の形成ということで、人として社会生活が出来る人間に育てることだと思います。

そういうわけで、「はじめての教科書」としては、ピントがボケていると思います。

しかし、それ以上に重大な問題があります。
それは、一番の要のところが間違っているからです。
これでは、教科書とはいえませんね。

それは、日本神話にある 天照大神の天岩戸籠もり 伝説。

日本の神話を取り入れたこと、さらに天皇家の皇祖について取り上げたことには評価できます。

しかし、たいへんザンネンなことに、この本も、天照大神が岩戸を立ててしまったのは、弟神である素戔男尊の乱暴に腹を立てたからと記されています。
それでは ただの ヒキコモリ伝説 です。

そうではないでしょう。

素戔男尊の行動に対して、自らを反省するためにお隠れになり、そうして更に立派になられた天照大神。

つまり、戦いをせず、自己反省をすることによって自分を高め、周囲の賛同を得たということです。

最近の解釈では、天の岩戸籠りの伝説こそ、天皇家の始祖である高貴な精神が、日本を統一した建国の精神であり、万世一系の歴史をもつ皇室の「淵源」であることが明らかになりました。
つまり「見畏む」という天照大神の精神作用が高徳であったのです。

その「建国の精神」に感動して天照大神の子孫に忠誠を誓ったのが、日本特有の大和魂です。
それが、日本国民の基礎の基礎の精神です。

そこを間違っていては、日本の道徳の教育になりません。
それでは皇室の万世一系の説明ができないでしょう。

また、この本は、新渡戸稲造の「武士道」を紹介していますが、徳目を羅列しただけでは、意味が分かりません。
以前の『修身』の教科書のように、キチンと説明をすべきでしょう。
さらに武士道とは、単に君主に仕える精神だけです。
新渡戸稲造が著した精神は、そんなチッポケなものではありません。
『大義名分の教育』、それが新渡戸稲造が一番言いたかったことです。
そうした重大なことを、少しのコラム欄に納めてしまうものではないと思います。
昔の修身の教科書は、このいわゆる「武士道」だけでも一冊をかけて訓説していました。

そういうわけで、この教科書は、ザンネンな・・・というよりも、まったく使えないテキストです。
これは、教室で使うことを禁じましょう。

道徳教育をすすめる有識者の会 編  発行 育鵬社  発売 扶桑社 2013年 12月 5日 初版第一刷発行  1,200円 ISBN978-4-594-06958-2

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