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あたりまえ

気管切開

あたりまえのように動いていた体。あたりまえのように喋れたのに。それがある日突然、失われてしまう。

もし、自分がそうなったら、どんな気持ちになるだろう。障害を持った人を見ると、ときどきそう思う。

「失われた」と考えないで、「神様にお返しした」と考えるように・・・。と、ある宗教家が言っていた。しかし、そんな気持ちになれるだろうか。

以前、岳父の介護に立ち会ったことがある。病状がすすみ気管切開を余儀なくされた。麻酔から醒め喋れないことに、がっかりしていた様子に見えた。きっと喋りたいのだろうと思った。いまでこそ金さえ出せばなんでもそろってしまうが、当時はコミュニケーション機器なんてなかった。そこで、あいうえお順にひらがなを書いた表を作った。それで会話しようとした。

ところが、岳父は拒絶した。今考えると、それは会話が普通にできなくなった・・・という事実認識のダメ押しではなかったか。また、岳父にとっては嫁の夫に対する手前もあっただろうか。まもなく岳父は亡くなった。あの時以来、病気と闘う意欲が失せてしまったように感じた。

最近、大きくなった娘をみたとき、当時のことを思い出すことがある。静かな大切な時間を奪ってしまったのではなかったか。本当に申し訳ないことをしてしまった、と。

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